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札幌地方裁判所 平成8年(ワ)1419号 判決

原告

島義慈

右訴訟代理人弁護士

三木正俊

八木宏樹

被告

専教寺

代表者代表役員(職務執行停止中)

島義弘

仮代表役員

戸髙尚重

共同訴訟的補助参加人

島義弘

右訴訟代理人弁護士

長谷川英二

主文

一  原告は、被告の代表役員であることを確認する。

二  訴訟費用のうち、参加によって生じた部分は共同訴訟的補助参加人の負担とし、その余は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨。

第二  事案の概要

一  本件は、被告の代表役員兼住職の地位にあった原告が、被告の包括団体たる宗教法人真宗三門徒派からなされた住職罷免処分(同時に代表役員たる地位を喪失する処分)は無効であるから現在も被告の代表役員であると主張し、この処分を有効と主張する被告に対し、その地位の確認を求めた事件である。なお、現在の登記簿上の代表役員である島義弘が共同訴訟的補助参加人として、本件訴訟に参加している。

二  争いのない事実(明示的には当事者が認めていないが、証拠上明らかで争点となっていない事実を含む)

1  被告は、宗教法人真宗三門徒派(以下「三門徒派」という。)を包括団体とする宗教法人である。

原告は、平成四年九月一〇日、被告の住職兼代表役員に就任し、平成七年七月一一日、住職を罷免されたが、地位保全等仮処分決定(甲三五号証及び三六号証)により、現在仮に代表役員の地位にあるものである。

被告においては、規則(宗教法人専教寺規則第七条、甲一六号証)により、代表役員は、専教寺の住職の職にある者をあてることになっている。

共同訴訟的補助参加人島義弘(以下「義弘」という。)は、原告の実父で、原告の前に被告の住職兼代表役員であった者であり、後記のような経過を経て、現在再び登記簿上被告の代表役員であるが、前記仮処分決定により、代表役員としての職務の執行を停止されている。

2  平成六年一〇月一〇日、被告の檀信徒である新森敏幸(以下「新森」という。)及び沼田靖淑を責任報告者とする「専教寺住職並野崎多恵子不正事故報告書、責任役員不正行動報告」(丙二二号証)が、さらに同月一三日、住職罷免請願書がそれぞれ三門徒派に提出された(丙八号証参照)。

3  これを受け、三門徒派宗務長寺川秀丸(以下「寺川」という。)ほか一名が、北海道を訪問し、右各文書の中で指摘のあった行為について調査し、その結果を同月二〇日、三門徒派門主あてに報告した(甲一八号証)。その結論は、以下のとおりである。ただし、この書面は、原告には送付されていない。

(一) 請願書の内容にある専教寺住職の罷免は、その必要を認められない。

(二) 事件を起こし、門徒に混乱を引き起こしたことについては、住職の責任もあり、本山としては参務(注…本山において、門主、宗務長に次ぐ地位)を解任する。

(三) 今後、住職は独断専行することなく、また、門徒間においての確執の起きないよう住職、総代及び門徒と協議すること。

また、教区各寺院方と意思疎通を計って慎重に行動するよう注意を促す。

4  同年一一月一二日、三門徒派は、「門主から原告に対し、直接訓戒したいので上山されたい」とする書簡を原告に送付したが(丙二五号証)、原告は上山しなかった。

5  平成七年三月二一日、専教寺の檀家総会が開催され、その結果を記載したものとされる「専教寺檀家総会の結果報告」と題する書面(丙二九号証)がこのころ新森らにより三門徒派に送付された。これによると、このとき新森らが被告の檀家総代から外された。

6  平成七年四月一〇日、三門徒派は、新森らからの報告を受け、原告に上山を命じたが(丙二六号証)、原告が上山しなかった。

7  同年六月二八日、原告は被告の臨時檀家総会を開催した。原告から三門徒派との被包括関係廃止の説明を行おうとしたが、出席者から議題が事前に明確にされていないなどの意見が出されて紛糾し、総会は混乱したまま終了した。

8  同年七月五日、被告の責任役員会で、三門徒派との被包括関係廃止決議を行い(甲一号証)、同日被告の総代会において、右についての同意を取り、同意書(甲二号証)を作成するとともに、原告はその旨を三門徒派へ通知した(甲三号証)。

9  同月六日、原告は三門徒派との被包括関係廃止の公告を行った(甲四号証)。

10  同月一一日、三門徒派は、懲罰委員会で原告を住職から罷免することを宗議会に諮ることを決定し(丙八号証)、引き続いて臨時宗議会を開き、原告を住職から罷免する旨を決議し(以下「本件罷免処分」という、丙九号証)、その旨を原告に通知した(甲五号証の一ないし三)。

臨時宗議会議事録(丙九号証)記載の罷免事由は、以下の三点である。

(一) 宗務長が住職側の真意を尋ねるため、三回上山を命じたが、原告は上山していない。

(二) 専教寺問題(寺院会計の不明確、門徒間の不和、親子の対立等)で、原告に行動を慎むように注意したが反省の色がない。

(三) 住職就任時の誓約書に違反して、平成七年七月五日の総会において、被包括関係廃止の決議をした。

なお、原告に送付された住職罷免の辞令には、「誓約書に違背の為住職を罷免する」との記載がある(甲五号証の二)。

さらに、三門徒派門主は、同日付けで、義弘を専教寺住職に任命する旨の辞令を発し(甲六号証)、同月三一日、その旨の登記がなされている。

11  同月二四日、原告から専教寺の檀家に対し、「三門徒派離脱についてのお知らせ」と題する文書(甲九号証)が送付された。

三  争点

1  罷免事由

(一) 義弘側の主張

1  原告には、以下のような不行状が存在し、これは僧侶懲戒及び懲戒減免規定(宗則第八号、丙六号証)の第四条二号ないし四号に該当する。なお、以下の②以降がいわゆる専教寺問題(前記第二、二10(二))と言われるもののうち、主たるものである。

① 三門徒派寺川は、平成六年一一月一二日に書面で、平成七年四月一〇日に書面で、同年五月一〇日に電話で、三回にわたり上山を命じたが原告はいずれもこれを拒否した。

② 新森は、平成四年七月二〇日、原告に対し、三門徒派に納めてもらうべく、「本山納入経費」として金五〇万円を預けたが、この金員が三門徒派に全額納入されていない(丙一七号証、丙三五号証)。原告は門主に直接渡したというが門主自身これを否定している(丙一五号証)。

③ 阿部功(以下「阿部」という。)を被保険者とする死亡保険金二五〇〇万円の生命保険金受取人を、平成六年三月四日、阿部が代表取締役を務める訴外朝日サービス株式会社(以下「朝日サービス」という。)から被告に変更し(丙一八号証)、この問題が表面化すると阿部の子供に受取人を変更した。

④ 阿部は、三門徒派の僧籍を得ていたところ、疾病のため除籍を申し出ることとなったが、除籍の手数料は金一万二〇〇〇円であり、また、平成六年一〇月三日に既に除籍済みであるにもかかわらず(丙一三号証)、原告は、同月四日、これから除籍するかのように装って除籍申請用紙二部を同封し、右に伴う冥加金二〇万円の送付方を阿部の妻敦子宛に請求する書簡を提出した(丙一二号証)。僧籍の除籍に関して冥加金は不要であり、原告には、不正な金員請求の目的があった(丙一一号証)。

⑤ 「専教寺納骨堂販売契約取消に基づく返戻として」の但書のもと、被告が平成五年九月二八日朝日サービスから金六七万〇六七一円を受領した旨の領収書があるが(丙一九号証)、右金員については専教寺のいかなる帳簿にも記載がない。

⑥ 原告は阿部から三〇〇万円もの金銭の借り入れをしていた(甲二八号証の一ないし三)。

⑦ 原告は、朝日サービスや帝都礼装と共同して、被告を掲載した葬儀、霊園事業の広告やチラシをまいたが(丙二〇号証、二一号証)、その内容、配布方法において、宗教法人として行き過ぎがあった。

⑧ 原告の実父である義弘を合理的理由なく寺から放逐し、檀家の者が見るに見かねて自己所有のアパートに引き取って現在に至っている。

⑨ 檀家の一部から度重なる請願書等が三門徒派に提出されており、檀家の間に不和が生じている。

2  原告のこれらの行為は、第四条二号ないし四号に該当するのに加え、原告が三門徒派に差し入れた「住職誓約書」(甲一三号証)の以下の条項に反している。

一  宗制、宗法を遵守し、本山の護持発展に寄与すること。

一  転宗、転派を企てたり、又僧侶間の和合を破らぬよう心がけること。

一  常々言動を慎み、品性の陶冶に努め、僧侶の本分に悖ることのないよう留意すること。

そして、右誓約書には、「右の条々堅く相守り、違背しないことは勿論、万一違背の故を以て宗派の法規により処分されることがありましても、決して異議は申し立てません」との記載があるから、誓約書違背をもって罷免することが可能である。

(二) 原告の主張

1  義弘が罷免事由と主張する各事実は、被包括関係廃止決議を行ったことを除いては存在しない。

各事由ごとの原告の主張は以下のとおりである。

① 上山命令拒否について

三門徒派から上山命令を受けたのは、平成六年一一月と平成七年四月の二回であり、一回目は檀家の葬儀があったこと及び原告自身の体調不良で行けなくなったので、その旨三門徒派宗務長に伝えているし、二回目は三門徒派の前門主の妻が逝去したということで、三門徒派の方から都合が悪いと言って来たので実現しなかったに過ぎない(原告本人、反訳書五〇頁ないし五四頁)。

② 新森の「本山納入経費」について

本山に間違いなく納めている(甲二六号証、二七号証)。

③ 保険金の受取人変更について

阿部に頼まれて行ったものであり(甲二〇号証)、受取人を専教寺にしていても、保険金は阿部の子供に分与する約束があった。

④ 阿部の冥加金について

僧籍離脱に際して、冥加金の額を尋ねたところ、分からないということだったので、阿部の将来の僧籍復活の可能性も考え、迷惑料という意味も含め、二〇万円が相当と判断して、請求したものであり、不正は全くなかった(原告本人、反訳書三九頁ないし四四頁)。

⑤ 朝日サービスからの金銭返還

朝日サービスから受取った金銭は、檀家から受取った永代経料を朝日サービスにチラシ代として預けていたが、その残金を返還してもらったもので、このことは被告の帳簿(甲一九号証)によって、裏付けられる。

⑥ 阿部氏からの借り入れについて

支院の仏具を揃えるための費用を貸してもらったものであるが、借入金はすべて返済している。

⑦ 広告、チラシについて

檀家の人々にも喜ばれており、行き過ぎがあったとは考えられない。

⑧ 親子の不和

義弘は、被包括関係廃止に反対する一部の檀家に担ぎだされているに過ぎず、元々親子間の不和は存在しない。

⑨ 門徒間の不和

原告のやり方に反対する一部の檀家が、問題を大きくしているのみで、ほとんどの檀家は原告を支持しており、不和はない。

2  罷免処分の根拠規定は、僧侶懲戒及び懲戒減免規定第四条各号しか存在せず、これは限定列挙と解すべきであって、誓約書違反は罷免の理由とはなりえない。

3  結局本件罷免処分は、三門徒派との被包括関係廃止決議を理由とするものであり、まさに、被包括関係の廃止を防ぐこと、またはこれを企てたことを目的として、被告の代表役員の解任を意味する処分を行ったものとして、宗教法人法七八条一項に違反し、本件罷免処分は同条二項により無効である。

(三) 義弘側の反論

1  被包括関係廃止決議は、本件罷免処分の理由ではない。

すなわち、三門徒派は、平成七年六月二八日の専教寺臨時総会の議事録(丙二八号証)が送付された段階で、「事情は理解できたが、(新森らが中心となっている)専教寺を護る会の一方的な話だけでは、住職を罷免することもできない。したがって、七月七日の北海道教区の会議の結果を聞き、住職に上山を命じて対処する。住職の上山なき場合には懲罰委員会にかけて罷免する。」ということを決定していた(丙八号証)。そして、原告が、北海道教区の会議に出席せず、本山にも上山しなかったのであるから、三門徒派は先の決定に従って原告を罷免しただけであり、被包括関係廃止を防ぐこと、あるいはこれを企てたことを理由として、罷免したのではない。

2  原告は以下の理由から、宗教法人法七八条に基づいて、本件罷免処分の無効を主張することはできない。

①手続違背

包括関係の設定・廃止は、宗教法人の目的そのものであるから、宗教法人の基本構成員たる檀家の総意によって決すべきである。

本件においては、平成七年六月二八日の臨時檀家総会において、採決に至らなかったところ、同年七月五日に責任役員の決議、総代会の同意をもって決定したものであり、何ら法律上の効力はない。

②被包括関係廃止の理由

宗教法人法七八条は、真摯で切実な宗教上の信念に基づく被包括関係廃止の場合に限って適用されるべきであるが、本件においては、信仰上の理由に基づくものではなく、単に自己がいよいよ罷免されるという事態になっていることを察知した原告が、同条を利用して罷免を免れる目的で、七八条違反の形式を作出するためになした行為であることは、以下の諸点から明らかである。したがって、原告の被包括関係廃止決議は、原告の真意ではなく、虚偽表示であるから、七八条違反を理由に無効を主張することは許されない。

ⅰ 原告は、被包括廃止決議後、三か月も経過した平成七年一〇月に、専教寺において予定されていたいわゆる報恩講への参勤を関係寺院の住職に案内した「宗祖親鸞証聖人報恩講御参勤案内」と題する書面(丙一号証)の中で、「真宗三門徒派当別山専教寺」と二か所にわたって明記している。

ⅱ 原告は、東本願寺と本末関係あるいは包括関係を結びたいとしており、その理由として、専教寺の檀家の九割は現実には東本願寺派の檀徒であることを挙げるが、三門徒派に離脱に反対するという内容の署名簿に七〇名を超える署名がある(丙三号証の一ないし五)こと、また、平成三年に行われた専教寺開寺一〇〇年記念行事の際には、三門徒派門主も出席し、檀家の八割から九割程度が出席していること(新森証言反訳書一一頁ないし一三頁)から、このような事実はない。

ⅲ 原告が東本願寺派への転派を真に考えているのであれば、事前に東本願寺派に受け入れてもらうことの承諾を得るのが通常と考えられるところ、そのような事前の準備がなされた形跡もなく、檀家への説明も唐突であった。

なお、原告は、平成七年六月二四日開催の専教寺総代・役員会に東本願寺派本山関係者が出席し、東本願寺派本山の考え方を説明したと主張するが、義弘側で調査してもそのような事実は存在しない(丙三六号証の一ないし丙三八号証)。

四  原告の再反論(宗教法人法七八条関係)

1  手続

被包括関係廃止のためには、檀家総会の議決は不要であり、原告は規則にしたがって、責任役員会での決議及び総代会の同意を経ており、手続的に何の問題もない。

2  被包括関係廃止の理由

原告は、以前から檀家の九割もが東本願寺の信徒でありながら、三門徒派を本山としていることに疑問、矛盾を感じていた。また、三門徒派に属していたのでは、三門徒派に布教使がいないために、布教使の確保ができず、東本願寺に依頼しても、忙しいときには後回しにされたり、研修会の開催等で本山からの支援が全くないなどの問題があった。そこで、原告は、これらの矛盾、問題点を解消するために、被包括関係廃止の決議をしたものである。

したがって、被包括関係廃止は信仰上の理由に基づくものであり、罷免を免れることを目的とした虚偽表示ではない。

第三  当裁判所の判断

一  罷免の理由

争いのない事実中に記載した住職罷免決議に至る経緯及び関係する証拠から三門徒派の罷免事由についての主観的認識は以下のように認定することができる。

1  平成六年一〇月、寺川が門主あてに報告書を提出した段階においては、いわゆる専教寺問題に関しては、新森の永代経料(第二、三1(一)(一)②)、生命保険の受取人(同③)、阿部の僧籍離脱に際しての冥加金(同④)、朝日サービスの領収書(同⑤)、阿部からの借入金(同⑥)、チラシ・広告(同⑦)等について、認識した上で、疑わしい点はあるとしながらも、罷免の必要性なしとして対処した。その際、これらの各問題が実際にどの懲戒条項にあたるのかを厳密に検討した様子はなく、ただ、檀家から不信を抱かれるようなことがあったこと自体を重くみて、原告を参務から解任するとともに(正確には原告から辞表を提出させた)、上山を命じて原告に注意することとした。このことは、門主あての報告書の内容(甲一八号証)及び寺川の証言から認められる。

2  その後も原告の上山の機会がないまま時間が経過し、その間も平成七年三月末には、新森らから檀家総会の結果が三門徒派に送付されるなどしていたが(丙二九号証)、この内容から、このころ既に原告が転派する可能性があることが示唆されている。そして、この中には、「本山も住職罷免は実現性が薄いと考えるということでした。」との記載があることから、三門徒派はこの段階では住職罷免はできないという認識をもっていたことが明らかである。

3  平成七年六月二八日の臨時檀家総会で、原告が被包括関係廃止の件を持ち出そうとして紛糾したが、このことは、新森らから議事録送付という形で三門徒派に伝えられた。しかし、その際にも、三門徒派の対処は義弘側も主張するように「事情は理解できたが、専教寺を護る会の一方的な話だけでは、住職を罷免することもできない。したがって、七月七日の北海道教区の会議の結果を聞き、住職に上山を命じて対処する。住職の上山なき場合には懲罰委員会にかけて罷免する」というものであった(丙八号証)。したがって、原告が被包括関係廃止を具体化しようとしていることが伝えられた段階においても、なお、三門徒派としては、住職を罷免するところまではいっていないという判断があったと認められる。

4  そして、同年七月一〇日に至り、原告が同月五日に被包括関係廃止の決議をしたことが伝えられるに及んで、いよいよ罷免することに決したことは懲罰委員会会議録(丙八号証)の時間の流れを追った記載、及び出席委員の発言内容から認められる。また、寺川は、「被包括関係廃止決議に至る前の段階では、罷免までいかないが、被包括関係の廃止に至ってこれは罷免するしかないということになったということで間違いないか。」という趣旨の問に対し、「そうとっていただいて結構だと思います。」と証言し、「被包括関係の廃止ということがなければ、現在まで罷免になっていなかったかもしれないわけですね。」という問いに対し、「そういうことです。」と証言している(反訳書四五頁)。以上から、本件罷免処分は、被包括関係廃止決議以前の原告の疑わしい行動もその理由としつつ、被包括関係廃止の決議が決定的な理由となって行われたものであることは明らかである。そして、宗教法人法七八条一項で禁止される不利益処分は、被包括関係廃止を企てたことが唯一の理由である場合に限らず、他にも理由がある場合であっても、およそ被包括関係廃止の企てがなければ罷免しなかったであろうほどに、被包括関係廃止が主たる理由となっている場合も含むと解されるところ、本件罷免処分はまさにそのような場合に該当するから、同項に反し、同条二項により無効である。

二  罷免の根拠、原告の不行跡の存否

罷免の理由について、右のとおり認定した以上、誓約書違反をもって罷免し得るかどうか、義弘側が主張する原告の各不行跡が客観的に存したかどうかは本裁判の結論を左右するものではないから、判断するに及ばない。

三  被包括関係廃止決議の手続

原告のなした手続が被包括関係廃止のための手続として有効なものかどうかにかかわらず、原告が宗教法人法七八条にいう被包括関係廃止を企てたこと及びこれを理由として本件罷免処分がなされたことは前記判示のとおりであって、手続的な問題は本件裁判の結論に影響せず、判断するに及ばない。

四  被包括関係廃止の理由等

義弘側は、宗教法人法七八条にいう被包括関係の廃止とは、真摯で切実な宗教上の信念に基づくもののみに限定されるべきであると主張する。しかし、そのような場合に限られないものと解する。その理由としては、まず、法律の文言上、何らそのような限定が付されていないことが挙げられる。また、宗教法人法上、被包括関係の廃止は、二六条、二七条の規則の変更に関しても規定されているが、これらの条項における被包括関係の廃止に比して、七八条の被包括関係の廃止を限定的に解釈する条文上の根拠もなく、両者は同義であると考えられるところ、およそ被包括関係の廃止は信仰上の理由に基づく場合にしかできないとなると、現実には宗教団体の活動上信仰上の理由のみならず種々の理由から離脱を欲する場合が考えられるが、信仰上の理由とそれ以外の理由を峻別することは困難であることに鑑みれば、運用次第では規則変更の認証を通じて所轄庁が宗教上の教義にまで介入する余地を与え、あるいは裁判所が教義の解釈に立ち入った判断を求められることにもなりかねず(同法八五条参照)、ひいては、本来包括宗教団体にとっては統制上もっとも危険な行為というべき被包括関係からの離脱を、信教の自由の一態様である宗教団体の活動の自由を保障する見地から容易ならしめている宗教法人法の趣旨を没却することにもなることから、そのような限定的な解釈は相当ではなく、被包括関係廃止を企てたことを理由とする不利益処分は、法定期間内は一律に禁じたものと解すべきである。

本件においては、原告は被包括関係廃止の理由について、東本願寺派への転派を挙げているが、東本願寺派との接触は証拠上希薄である点は否定できない。しかし、被包括関係廃止の理由は、信仰上の理由に限られないから、この点に関する義弘側の主張には理由がない。

もっとも、真実被包括関係廃止の意思がないのに、宗教法人法七八条一項の不利益処分禁止規定を利用し、不利益処分を免れる目的で単に外形のみを作出したような場合には、同条項違反を理由に不利益処分の無効を主張し得ないことは当然である。

義弘側は本件の被包括関係廃止決議はまさにこのような場合であると主張する。しかし、そもそも、甲一号証及び二号証にあるとおり、責任役員会で三門徒派との被包括関係廃止決議を行い、さらに総代会においてこの点についての同意を取るという手続を踏み、かつ、その旨の通知を三門徒派に対してなし、かつ公告し、信徒に対する説明文書(甲九号証)を送付しているし、東本願寺派の末寺となるべく檀家の署名を集めている(甲四〇号証)。このように、被包括関係の解消という事実が払拭できない程度に浸透させる行為を自ら行っているのであり、このような手続全体がそもそも真意と異なり外形を作出するためのものとは到底考えられない。義弘側の主張する報恩講への参勤の案内の点については、原告本人は「これは他意はありませんでした。たまたまこうやって印刷したものがまだ数多くあったので、そのまま、使用した、それだけのことです。」(反訳書六六頁)、あるいは「たまたま封筒も印刷したものがありましたので、消せばよかったのが、不用意だった(以下省略)。」(反訳書六七頁ないし六八頁)と述べており、これを特に疑うべき事情もない。他の一連の行動と対比してみれば、案内書に「真宗三門徒派当別山専教寺」の明記した行為が単なる不注意であると考えるのが最も合理的である。また、専教寺の檀家の九割が現実には東本願寺派の檀徒であること、東本願寺派の末寺(被包括団体)となることの利点あるいは三門徒派の被包括団体であることの支障が、被包括関係廃止についての理由であるとする原告の主張に対し、義弘側はこのような事実が存在しないとするが(甲二九号証の一及び二)、専教寺の檀家の九割が東本願寺派の檀徒であるか等については、教義の内容に関わる問題であって、裁判所の立ち入るべき問題ではない。しかし、少なくとも、これらの事実に関して、専教寺の檀家に対する説明書の中にも記載し(甲九号証)、檀家の理解を求めようとしている原告の態度をはじめ、前記の被包括関係廃止の関する手続を原告が取っている態度からみても、被包括関係の廃止が真意でないということは認められない。

第四  結論

以上より、本件罷免処分は、被包括関係廃止を企てたことを理由として、代表役員を解任する行為であって、無効であり、したがって、現在原告は被告の代表役員であることになるから、原告の請求は理由がある。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官金子修)

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